普段、M&A仲介をしている中で、売り手や買い手の顧問税理士の役割を痛感しています。
税理士業界の新聞から原稿作成を依頼されたので、税理士さんのお役に立てるよう下記の原稿を書きましたが、編集委員から重要な部分の削除を依頼されたため、「これを削除するとメッセージが伝わらない」と断ったところ、この原稿の掲載は見送られました(>_<)
おかしな記載は一つもないのにおかしな編集委員に振り回されてしまいました。
それはさておき、参考までに下記がその幻の原稿です(*^_^*)
1.はじめに
私自身、中小企業のM&A仲介に特化して18年ということもあり、M&A仲介実績は約80件、M&A用の企業評価は250件以上の実績である。1件のM&Aでグループ会社数社の企業評価をするケースや将来のM&Aに備えて現在の企業評価を依頼されるケースがあるため、M&A仲介件数より企業評価件数が多くなっている。
日頃、M&A仲介をしていて、売り手や買い手の顧問税理士の重要な役割を痛感している。M&Aは、売り手社長の売り相談からスタートするのが一般的であるが、売り手の紹介は、税理士が最も多いと思われる。そこで、今回は、顧問先がM&Aの対象(売り手または買い手)になった場合、顧問税理士としてどう対応をすべきかなどについて、述べていくことにする。
2.顧問税理士の対応
後継者のいない会社は、約7割といわれるが、後継者が見つからない場合、会社の死活問題となるので、M&Aで会社を売却したいという社長のニーズは切実なものである。こういう社長が、相談先としてまず考えるのが、顧問税理士である。顧問先からM&Aの売り相談を受けた場合、顧問税理士の対応には次の3パターンが考えられる。
①売り相談を真剣に聞き、M&A仲介者を紹介する。
②ビジネスチャンスと捉え、M&Aのお手伝い(買い手探しなど)をする。
③M&Aに反対し、社長にしばらくがんばるよう説得する。
上記のうち、残念なのは③の対応である。これは、M&Aに対するマイナスイメージがあるのか、または顧問先が1件減るのを懸念しているためと思われるが、M&Aに反対された社長は落胆してしまい、顧問税理士はその社長からの信頼をなくすことになると思われる。場合によっては、実際にM&Aを諦めた結果、倒産に至るケースもあると思われる。
ある病院案件では、売り手の理事長は、顧問税理士に対し、顧問料が高い(相場の2倍以上)等を不満に思っていたことから買い手である院長に「顧問税理士を替えた方がいい」とアドバイスされた。顧問交代を聞いた顧問税理士は、その後、M&A(重要な質問に対する回答や引継ぎ)に一切協力せず、理事長一族の「退職所得の受給に関する申告書」の作成すら拒んだ。これには関係者全員が閉口したが、プロとして社会的責任を果たさない残念なケースであった。
次に顧問税理士が、M&A業務に慣れている場合は、M&Aのお手伝いをされるのが良いと思われるが、M&Aはかなり専門的な業務で、失敗すると顧問先や買い手に大きなダメージを与えてしまう点を充分理解すべきである。よって、経験が少ない場合は、M&A仲介者へ紹介するだけか、または、M&A仲介者のサポートに徹するのが良いと思われる。私は今まで顧問税理士が中途半端なM&Aのお手伝いをして、結果的に顧問先や関係者を困らせている事例をいくつか見てきた。会員が買い手の買収監査のお手伝いをして不正が発見できず、買い手から訴えられて鬱になった大変な事例もあった。
M&Aではミスは許されず、マニュアルを見ながらできるものではないと考えているので、M&Aの中でも合併や会社分割については、これらを得意とする司法書士とチームで業務を行っている。
M&A仲介は、成功報酬制なので、毎月固定額を顧問先からもらっている関係だと別途M&A報酬を請求しづらく、また、狩猟民族のような感覚で行動することが難しいケースも多いと思われる。
3.M&A仲介者
M&Aで最も重要なことは、売り情報が漏えいしないことであるが、プロ以外のM&A関係者が、買い手を探す際、売り情報を漏えいさせている事例が多く見受けられる。
ベテランM&A仲介者は、色々な業界の買いニーズを持っており、秘密保持に注意しながら買い手を探すことに長けているといえる。
良いM&Aとは、トラブルがなく売り手と買い手がお互い「売ってくれてありがとう、買ってくれてありがとう」と言い合えるようなM&Aであるが、私はこれを「ハッピーM&A」と呼んでいる。
M&Aを進めるには細心の注意が必要であり、ミスをすればすぐに裁判沙汰になる可能性があるという認識が必要である。
売り手社長とM&A仲介者(厳密には担当者)との相性も重要なので、できれば複数のM&A仲介会社へ足を運び、担当者の仲介実績を聞き、相性の良さを確認することをお勧めする。多くの案件を抱えている担当者の場合、どうしても手数料の大きな案件に集中する傾向があるので、小さな会社の場合は、担当者が真剣に動いてくれるかどうかの確認が重要である。
4.買収監査時の対応
M&A交渉が順調に進んだ場合、売買条件が概ね合意できた時点で、基本合意契約が締結される。その後は、買収監査を経て、数か月以内に最終契約が締結されるのが一般的である。もし、買い手が充分な検討を行わないまま、基本合意契約を締結した場合は、買い手は買収監査をしっかり行い、リスクなどを充分に把握する必要がある。
買い手がM&Aを実行する際、最後の判断をする場面が買収監査である。法務面の調査もあるが、メインは会計面の調査である。もし、売り手の社長が会計面を熟知しておらず、監査人に回答できない場合は、顧問税理士に協力要請することが多い。社内の経理担当従業員でも対応可能だが、M&Aは秘密裏に進められるので、できるだけ従業員には買収監査のことを伏せておくべきである。
顧問税理士は、秘密保持を守る職業的専門家なので、売り手社長から期待され、何でも相談されやすいといえる。
顧問先の譲渡で、顧問先が1件減ってしまう可能性はあるが、顧問先や買い手のことを考えて、調査の要請があった場合は、協力してあげるべきである。
ある案件では、売り手の顧問税理士の買収監査時の対応が誠実でしっかりしていたため、買い手(上場会社)の信頼を得て、税務顧問は引き続き継続され、なんと買い手の顧問税理士にもなることができた。
M&A仲介者の発言力は強いので、遠慮せず、仲介者から買い手にM&A後も顧問税理士を継続させていただくよう打診してもらうべきである。M&Aに協力しない顧問税理士が、M&A後に継続される可能性はゼロであるが、プロとして誠実な対応をすれば、売り手はもちろん、買い手にも誠実さが伝わると思われる。日頃から適切な税務指導、電子申告、書面添付、月次巡回監査、経営計画作成などを顧問先と一緒に実践して業務品質の高い場合は、なおさら買い手からの信頼も得られるのである。
5.最後に
売り手をM&A仲介者に紹介した顧問税理士は、一般的にM&A仲介者から紹介料をもらうことができるが、顧問先も継続できれば、関係者全員が経済的にも精神的にもハッピーである。顧問税理士は、顧問先の社長に何でも相談できる専門家と思われていることが多いので、後継者のいない社長の最も重要なテーマであるM&Aにおいても期待に応えることができれば、顧問先の存続発展に貢献することなので、税理士冥利に尽きるといえる。